第3章 不穏な心
「…あ………っ」
「…?」
微かに、女のひとの声がした
目の前の窓から聞こえたその声
…なんとなく、嫌な予感がした
恐る恐る、そのガラスの向こうを覗いた
かろうじてわかる人影
でも、室内が暗いせいでよくわからない
目を細めて様子を窺った
すると、次第に暗闇に慣れてきた瞳にうつったのは信じたくない光景だった
部屋の中に、人影は2つ
一つはこの家に住んでいるんだろうか、とにかく女のひとの影
そして、もう一つ
その女のひとを抱き締めて、首筋に顔を埋めている影
黒いマントと赤い髪が、明かりのない室内でもなんとか見えた
そして、その全貌を理解するや否や
私は頭を誰かに殴られたような感覚に襲われた
「あ…っ、赤司っ、さん…っ」
信じたくない事実を裏付けるように聞こえた、女のひとのうっとりした声
がたがた、身体が震えた
心臓がドクン、ドクンと嫌な音をたてた
うそ
うそだ
「は、あ……っん、赤司っ…さ…、」
悩ましげに、その女のひとが赤司さんの背中を抱き締めた
赤司さんは一向に顔を上げないけれど、
何をしているか、なんて嫌でもわかる
…血を、吸っている
赤司さんは、この女のひとの血を吸っている
知らぬ間に私の呼吸は荒くなって、
足も手も肩も、全身が震えていた
………いや
嫌だ
信じたくない
どうして
なんで
頭が真っ白になって、何も考えられない
なに?
いま、私の目の前で
何が起こっているの?
「…っ、はぁ、…」
呼吸が苦しくなる
心臓がいたい
死んでしまいそうな程にいたい
私は震えすぎて動かなくなった足をなんとか動かして、その場から逃げ出した