第3章 不穏な心
「…あ?」
「?」
「金色しか持ってないってことは…
もしかしてお前、男いたのか?」
身を乗り出してものすごい勢いで聞いてきた火神さんに、私も反射で後退った
…なんでそんなに怖い顔で聞いてくる
びっくりするじゃないか
体勢を整えて、それからゆっくりと首を横に振った
「いいえ、恋人なんていませんでしたよ」
「あ?じゃあ好きな男にでもあげたのか?」
火神さんの言葉に、赤司さんも少しだけ私を見た
でもその質問にも私は首を横に振った
「…多分、どこかでなくしてしまったんだと思います」
「え…、あげたんじゃなくてか?」
「…この鈴は、私が父に初めて強請って作ってもらった物なんです」
「へえ~…」
「作ってもらった記憶はあるのですが、誰かに差し上げた覚えはないんです」
「ふーん。なら、もう一回行って探してくるか?」
「いいえ、私も10年間探していたんですが、見つかりませんでしたし…
きっとどこかに落としてしまったんだと思います」
「んー、わかった、」
「…あ、それよりも火神さん」
「ん?」
「…その…、母や姉は、元気でしたか?」
「あー…、まあ、な」
「…そうですか……」
「もうな、本当に嫌な奴らだな
お前の荷物取りに来たって言っただけで俺まで吸血鬼扱いだったからな」
「まぁ……、すみません、私のせいで…」
「あー…いや、名前は何も悪くねぇよ
あいつらの頭がおかしいだけだ」
「…ですが…」
「いいっつってんだろ、俺はお前に喜んで欲しくて引き受けたんだから
な?」
「…火神さん……」
お手本、とでも言うようににいっと笑った火神さんにつられて、私も知らず知らずの内に笑っていた
「…本当にありがとうございます、火神さん、赤司さん」
「おう、こんくらいいくらでもしてやるよ」
「…あぁ」
「なー、アルバム見てもいいか?」
「ええ、もちろん」
「…おお!お前の母さん美人だな!」
そんなことをしながら騒いでいる火神さんと私の横で、赤司さんは何故かタキシードの内ポケットの辺りをずっと握り締めていた