第3章 不穏な心
「…………はぁ、っ…」
あぁ、ダメだ
血が
――――血が欲しい
名前の前では「これがあれば血はいらない」なんて大口を叩いたが
こんな薬、一時の気休めでしかない
すぐに喉が乾く
それほどまでに、10年前に飲んだ血に焦がれている自分
血に溺れきっているなんてやはりいい気はしない
でも自分では抑えられないから嫌になる
「………っテツヤ、」
次第に荒くなってきた呼吸の中でテツヤを呼ぶ
いつものように待つ暇さえ与えず部屋に姿を現したテツヤに、追加の薬を持ってくるように伝える
慌てて部屋を飛び出した背中を見送って
俺はソファーに腰を下ろした
マントとタキシードを乱暴に脱ぎ捨てて
ネクタイを緩める
…時々思う
もしも、俺が普通の人間だったら、と
馬鹿馬鹿しい戯れ言だとは思うけど
でも実際にそうだったらどんなに幸せだっただろうか
別に今の吸血鬼の生活が嫌な訳じゃない
ただ、俺も名前と同じ人間だったら
こんな風に怯えさせることもなかったのだ
こんな風に屋敷に軟禁なんてしなくても済んてでいいだろう
もっと普通に、幸せにできていたはずなんだ
「……っ…すまない、」
何に対してなのかわからない謝罪が、知らぬ間に口から零れ落ちた