第3章 不穏な心
「あ、赤司さ…」
驚いて彼の方を見る
でも、視界に入ってくるのは彼の髪だけで
自分の首がどうなっているのかはまったく見えなかった
焦っている間にも、赤司さんは私の首筋を舐め上げる
「っ…、」
重ねていた手を離して、なんとか赤司さんの体を押し退けようとしたけれど、私より大きな体はびくともしない
それどころか肩を押していた手を掴まれて
そのままソファーに押し倒された
「あ、の…っ」
「………………」
いきなりの事態に頭が真っ白になった
なに
何が起こってるの
刹那、それまで柔らかいもので舐められていた首筋に、鋭く尖ったものが押し当てられた
無意識の内に、体が震えた
……う、そ
これって
思わずぎゅう、と目を瞑った
『特別だった』
真っ暗になった視界に、さっきの赤司さんの声がする
『大切だったよ』
ズキン、
『どうしようもなく、あの血が欲しくなる』
ズキン
そうだ
今、赤司さんが欲しがっているのは私の血じゃない
私じゃない
私じゃ、ない
「……………っ」
ただ、偶然近くにいるのが私だったから
だから、その子の代わりに―…
抵抗するのも忘れていると、何の痛みも感じないまま首筋にあてがわれていた牙が肌から離れていった
それと同時に私に覆い被さっていた赤司さんもゆっくり離れていく
私はとっさに両腕で顔を隠した
「…冗談だ」
「………………」
「君の血は吸わない、大丈夫だ」
「…!」
やっぱり
その子以外の血は飲めない
そういうことなの?
所詮私は、その子以外の“他の人間”も同然だから?
「驚いたか?」
またさっきのような意地悪な声
でも私は応えられなかった