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赤い吸血鬼と女の子 [黒子のバスケ]

第1章 吸血鬼、赤司征十郎



なんとか帰れる目処がたったようでホッとした

のも束の間、



私はすぐに噂を思い出した


村でも度々話題にあがる、怪物の噂




この森は、昼間こそ明るくて村の人たちの散歩コースになっているけど


一度夜になれば、野蛮で人間に飢えた怪物たちがうようよしているらしい


だから、夜に森に入ったひとはその怪物たちに食い尽くされてしまう



あくまで噂だけれど、実際に夜に森に入って生きて帰って来たひとはいないらしい


みんな次の日に無惨に食い荒らされた姿で見つかったとか、そうじゃないとか



そしてそんな怪物の頂点にいるのが赤司征十郎という吸血鬼だ



10年前までは近くの町や村を襲ったりしていたらしいけれど、最近ではぱったりそれがなくなったらしい


死んだんじゃないか、とかこの森から出て行ったんじゃないか、とかいろいろ聞くけれど、どれが本当なのかは誰にもわからない


だって確かめようがないから



でもこの森の中に赤司家の屋敷があることだけは確かだ


私も見たことがある


あ、いや
見たことがあると言っても昼間だけれど



生い茂る木々の間から、
立派な屋敷の屋根だけが見えた


でも近付こうとは思わなかったから、
今まで一度も屋敷の全体を見たことはない




………ってあれ、何の話だっけ


ああ、そうだ
家に帰らなきゃ




私はもう一度入り口を見た



ザァァ、と風に揺れる葉が騒ぐ



「入るな」「おいで」




ちぐはぐな声が聞こえてきそうだった



誘っているように揺れる枝に、
威嚇しているように騒ぐ葉



「おいで」



「入るな」




そうだよ

だってこの森には怪物がいるんだ



入ったら、絶対に殺される

でも、森を通る以外に家に帰る方法はなさそうだし



…どうしよう



私は森の入り口から果てしなく続く闇を真っ直ぐに見つめた




「…帰らなきゃ、」




そうだ
帰らなきゃ


じゃないと、また怒られる
叩かれる



そうだ

怪物が怖くてどうする

今の私は、怪物なんかよりも姉や母に叩かれることの方が怖い



殺されるなんていうのもただの噂だ


走れば20分くらいで抜けられるはず





「…よし、」




私は覚悟を決めると、真っ暗闇に一歩、また一歩と歩みを進めた

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