第2章 本当の赤司征十郎
「…広い……」
テツヤさんの言葉通り、かなり広い屋敷の中を私は宛てもなくふらふら歩いていた
大広間、応接間、食堂に書庫…
すべてが初めて見るものばかりで、最初は楽しかったけれど
流石にずっと歩き回っていると疲れてきて、私は目に留まった窓に近付いた
「あ………」
そこはちょうどテラスになっていて、
そのまま庭に通じていた
…確か、庭までならいいと言われていたし
やっぱり外の空気も吸っておかないと…
朝から籠もりきりなんて良くないだろう
カチャリ、と窓を開けて外に出た
アンティーク調のテーブルや椅子を抜けて庭に進むと、冬の手前にも関わらず綺麗な花が沢山咲いていた
「…綺麗」
それにいい匂いだ
改めて庭から屋敷の外観を見渡した
…うん、大きい
昨夜は暗くてよくわからなかったけれど、蔦が絡み付いた煉瓦の壁も彫刻が施してある窓枠も、どこかの御伽噺にでてくるお城のようだった
思わず見とれた
「征十郎!征十郎!」
「………え?」
征十郎、という名前に少しだけ身構えた
…誰の声?
「征十郎、征十郎!」
また甲高い声が赤司さんの名前を呼んだ
でも近くに人影は見えなくて、
私は庭の奥の方へ入っていった
おかしいな、この屋敷には赤司さんとテツヤさんの2人だけだと言っていたのに
不思議に思いながら歩いていくと、
幾つかベンチが立ち並んでいる場所に出た
「………――――!」
その一つに人影があった
反射的に、私はバラの花壇の後ろに隠れた
…って、何を隠れてるんだろうか、私
「征十郎っ!」
またあの声
恐る恐る植え込みから顔を覗かせる
こちらに背を向ける形で座っている赤司さん
マントは羽織っていなくて、
タキシードも着ていなかった
白いカッターシャツの彼はベンチの背もたれの上に腕を伸ばして、その指先で何かを遊ばせている
…なんだろう?