第2章 本当の赤司征十郎
髪を整えながら、とりあえず部屋の中を歩き回った
起きたものの、どうすればいいんだろう
やっぱり吸血鬼って昼間は寝ているものなんだろうか
というか、こんなに広い屋敷なのに使用人はテツヤさんしか見たことがない
ちらり、と机の上にあるベルを見る
…確か、用があったら鳴らせ、と言われた気がする
恐る恐る机に近付いて、ベルを手に取った
見たところ普通のベルだ
鳴らしても大丈夫そうだけれど
「………………」
意を決して、手に持ったそれを左右に振ってみる
リンリン、と綺麗な音がした
と思ったら
「呼びましたか、名前さん」
「!?」
ドアの向こう側から、テツヤさんの声がした
え、ちょ
速すぎやしないか
驚きながらもドアに近付いて
ガチャリ、と開けてみる
「おはようございます、名前さん」
「あ…、おはようございます」
そこにいたテツヤさんは、昨日と何ら変わらな様子で私を見てにっこりと笑った
…まさか、ずっとここにいた、なんてことないだろうな
じい、とテツヤさんを凝視すると、
テツヤさんは首を傾げた
「?どうかしましたか?」
「あ…いいえ…」
いやいや、待て私
このひとたちを人間として見ちゃいけない
怪物ならこの位のスピード当たり前なんだろう
この前、私を襲ってきた怪物もすごく素早かったし
「名前さん、朝食はどうされますか?」
「え」
「食欲があるんでしたら、持って来ますが」
「あ…」
そういえば、昨日の昼から何も食べていなかった
昨日の夕飯は、「どうせ殺されるんだから」と食べさせてもらえなかったんだ
「…お願いできますか?」
「はい、わかりました
それでは直ぐに持ってきますね」
では、と頭を下げたテツヤさんは廊下を右手に歩いていった
私もドアから顔を出して、
意味もなく廊下をきょろきょろした
…やっぱり昨夜とは印象が大分違う
窓という窓から日差しが降り注いで、壁や絨毯の敷かれた長い廊下をずっと奥まで照らしている
どこかのお城の朝の風景みたいだ
テツヤさんの後ろ姿はいつの間にか見えなくなっていた
…本当に素早いな