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赤い吸血鬼と女の子 [黒子のバスケ]

第2章 本当の赤司征十郎


『ここにいても、いいんですか…?』





平穏が訪れると、やはり名前のことが思い出された



細く震える声は確かに『ここにいてもいいのか』と言った


それはつまり、ここにいたい、ということだ


まぁ、あんな家に帰るくらいなら、と
こっちを選んだだけかもしれないし


断ったら俺に殺されると自己判断して
「嫌だ」と言えなかっただけかもしれないが




だが、あの時

彼女は伸ばされた俺の手を受け入れた



ただ大人しく受け入れて、
真っ直ぐに俺を見つめていた


吸血鬼に限らず、怪物に触られるなんて
普通の人間、それも女だったら
振り払ってもおかしくないものを


彼女は黙って受け入れた
拒まなかった


何人もの人間を殺めてきたであろう
吸血鬼の俺の手を、









俺は、ぐっ、とその手を握り締めた



後悔はしない

少なくとも、あの家に置いておくより
名前はここにいた方がいい



それは名前も少しは感じていると思う




頭を撫でた瞬間に僅かに潤んだ瞳


おそらく、10年前に亡くした母親か父親でも思い出したんだろう



泣きそうな顔をしていた




「………」




ソファーから立ち上がって窓に歩み寄る


森の向こうには町の明かりが見えた



…そう


名前はあんな場所にいてはいけない



此処が、この屋敷こそが名前の居場所


俺の隣が、俺の場所こそが彼女の在るべき場所だ



「…名前」



ぽつり、もう眠っているであろう名前に呼び掛ける



やっとだ




やっと君を手に入れた。


君を傷つけたあの人間の所には、君はもう帰さない


絶対に渡さない





タキシードの内ポケットに手を入れると、
指先に触れたものがチリン、と小さな音を立てた





『…まさか、もう俺のこと忘れたのかい?』


『いいえ、覚えています』





いいや、君はやはり忘れてた





『私と、お友達になってくれますか?』





10年前、そう言って笑いながら吸血鬼の俺に手を差し伸べた肝の据わった人間の少女を思い出して、俺はゆっくり瞳を閉じた


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