第2章 本当の赤司征十郎
コンコン
ドアを叩く音が静かな部屋に響いた
「テツヤか…入れ」
そう言うと、開いたドアからテツヤが入ってきた
「…名前は?」
「きっと今頃は寝ていると思います
とても気に入った様子でした」
「……そうか」
テツヤの言葉に俺は息をはいてソファーに座り直した
ただでさえ怪物の屋敷に住むのだ、
戸惑いや不安は相当なものだと思う
その理由さえわからないなら尚更だ
だから、自分が眠る場所くらいは安らげるように施さないと精神が参ってしまうだろう
とは言っても、俺は女のことはよくわからなかったから好き勝手に物を置いただけだが
どうやらこれ以上不安を煽るようなことはなかったらしくて安心した
「もう下がっていいよ」
「はい、失礼します」
軽く手を挙げながら言うと、テツヤはいつものように極力足音やドアの音を立てないように部屋から出て行った
遠ざかっていく気配を感じながら、溜め息
『…私、殺されないんですか?』
目を閉じると聞こえた、名前の面食らったような声
まるで俺に殺されることを期待していたような、そんな口振りだった
改めて彼女の姿を思い出す
この肌寒い時期に薄いワンピース一枚
上着も着ずに、靴さえ履いていなかった
名前の家での扱いが目に浮かぶようだった
指には皹やひび割れができ、
手足は気の毒な程痩せ細ってしまっていた
おそらく、ずっと冷たい水で仕事をさせられ
ろくな食事も摂らせてもらえていなかったんだろう
本当にあのとき殺しておけばよかったな
これだから人間は好きになれない
女同士になると醜い以外にいいようがない
名前だけは例外だが
ふつふつと沸いてくる自信の怒りを静かに抑える