第1章 吸血鬼、赤司征十郎
ガサガサ、段々近付いてくる音
やっぱり少しだけ怖いけれど、
逃げる必要もない
私は唯一持っていた赤司征十郎からの手紙を胸の前でぎゅう、と握り締めた
…ああ、でもせめてもう一度あのひとに会いたかった
今度こそ、ちゃんと目を見てしっかり伝えたかった
震える声でなんかじゃなくて
もっと自然な声で
「ありがとう」って言いたかったな
ガサガサッ、と何かが茂みから出てきた音
私は目を瞑って俯いた
さぁ、くるならこい
殺すなら殺せばいい
でも、いつまで経っても一向に襲ってくる気配がない
「……?」
なぜ
どうして何もしてこない
ゆっくり目を開けようとすると、
予想を見事に裏切る明るい声がした
「…ん?お前、ひょっとして人間か?」
何だか面食らったような声に思わず顔を上げる
「………え、」
目の前にいたのは、タキシードは着ているものの、どこか人間離れした男のひとだった
…あれ、怪物じゃなかった
「何してるんだ?お前、こんな所で」
「あ…あの、私は…」
あまりの拍子抜けに口が回らないでいると
、その男のひとは私が握り締めている手紙を見た
「…その手紙……」
「…あ、これは」
「もしかして、赤司からか?」
「赤司?赤司って……」
「ああ、吸血鬼の赤司」
「っ!」
「…あー、そういえば、あいつ人間からすげえ怖がられてるんだもんな…」
「え?」
人間の奴らって
あなたも人間ではないのか
頭に?マークを浮かべていると、その男のひとの後ろの茂みからガッサガッサ音を立ててもう1人、男のひとが出てきた
「火神っち~!1人で先行かないでくださいッスよ~!」
「ん?お前先に行ってっていっただろうが」
「…!」
私はそのひとの頭を見て言葉を失った
金髪の髪の間からぴょこん、と飛び出ている、ふさふさしたもの
…このひと、人間じゃ、ない
「お、オオカミ……?」
「ん?誰ッスかこの子」
「あぁ、俺たちの探してる奴だろ、たぶん」
「は、この子が!?」
金髪のひとが、まじまじと私の顔を見た
…え、なに
なんなの?