第1章 吸血鬼、赤司征十郎
その夜、私はたった1人でまたあの森の中を歩いていた
服はこの前よりも見窄らしい白のワンピース一毎
オマケに裸足だ
『途中で木の枝でも踏んで血を流しておいた方が、吸血鬼も喜ぶんじゃなくて?』
『怪物は鼻がいいもの、ランプなんかなくたって血の匂いで見つけてくれるわよ』
『精々気に入られるように頑張りなさいよ』
『まぁ、屋敷まで生きてればの話だけどね!』
「……………」
母と姉の言葉に、私は涙さえ枯れ果てた
…もしこれがあの童話だったら、
綺麗なドレスにガラスの靴、
カボチャの馬車に乗って舞踏会なのに
今の私は、薄いワンピースに裸足、
森の中をランプもなしに徒歩で歩かされて
向かう先は怪物の屋敷
お妃選びの舞踏会とはかけ離れた、
生贄という目的で、だ
とぼとぼ、裸足で森の中を歩き回った
お屋敷の大体の場所はわかるけれど、
数日前にあんなことがあったのだ
カボチャの馬車がいいなんて言わないから
せめて迎えを寄越していただきたかった
暗闇の中をただ手探りで進む
裸足の足に砂利や木の枝が食い込んで地味に痛い
時折吹く風が、ザァァ…、と木の葉を不気味に歌わせる
でも私はあの時のようにあからさまに怖がったりはしなかった
覚悟ができていた、といえば聞こえはいいけれど、内心自暴自棄になっていた
どうせあの家には居場所なんてなかった
それに、助けてくれたあのひとには悪いけれど、やっぱりあの時殺されていれば良かったのだ
あの家でこき使われて、いつか体が駄目になるか
この前、怪物に喰い殺されていたか
そして今から、吸血鬼に吸い殺されるか
…よく考えてみたらどれにしたって私は死ぬ運命にあるようだ
何だか身体的にも精神的にももう疲れてしまったし
いっそのこと吸い殺されて天国で父と母と暮らせればどれだけ幸せか
もういい
殺すなら殺せばいい
そんな安っぽい覚悟をしながら森の中を進んでいくと、いきなり目の前の茂みが揺れた
「っ!」
驚いてしまった自分に苦笑い
怪物だろうか?
だったらちょうどいい
死ぬとわかっているのだから、もう今だろうが屋敷に着いてからだろうが大差はない
私は逃げることはしないで、
ただその茂みを見つめた