第1章 吸血鬼、赤司征十郎
「あ…っいや、その…」
今の今まで私を襲う気満々だった怪物は、
その男のひとを見た瞬間に急にわたわたと慌て出した
「ち、違うんだ!別にオレは何も…っ」
「…口答えは許さないよ」
冷たい声で吐き捨てるように言ってから、
私の前にしゃがむ格好で降ってきた彼は
そのまま地面を軽く蹴った
そして瞬きをする間もなく目の前の怪物の懐に入り込んだ
「この森を荒らした罪は重い。よって、お前には俺が直接罰を与える」
「ひっ……!」
声にならない悲鳴を上げた怪物は、何が起こったのかわからない内に地面に倒れ込んだ
私にも何が起こったのかわからなかった
とりあえず
…助かってしまった、らしい
へなへなとその場に座り込んだ
頭を落ち着けようとしても恐怖やら安堵やらで全然落ち着かない
茫然と目の前の背中を見つめていると、
そのひとはくるり、と私を振り向いた
…赤色の夕日のように美しい瞳
この国では珍しい、その髪と同じ赤い髪の色
木の葉の間から差し込む淡い月明かりに照らされて、真っ黒なマントに身を包んだそのひとは、まるで一枚の絵のように美しかった
あまりの現実離れした雰囲気に、
ただ黙って見つめ合う
すると、そのひとはまたくるりと私に背を向けた