第4章 恨み憎む男ー灰崎ー
大切なものを一気に失って笑顔をなくした名前
だが10年前の彼女は、俺の隣で笑っていてくれた
俺と話をするのが楽しいと言われたことがあった
俺の手が温かい、と言われたこともあった
――そして何より、俺の隣にいられて幸せだ、と
そう言ってくれたことがあった
その時の笑顔が蘇って、それで俺は思ったんだ
怪物の俺でも、もう一度彼女を笑顔にできるかもしれない
怪物の俺でも、また彼女を幸せにできるかもしれない
―――こんな情けない俺でも
君を、護れるかもしれない
そう思って
悩んで悩んで悩みまくった末、
俺は彼女の家に手紙を出した
彼女が来てくれるのを願いながら…
「10年間もずっと独りでつらい思いをさせて…本当にすまない」
撫でていた頭を引き寄せて、細い身体を腕に抱いた
強く強く、離れないように
しゃくりあげながら、名前はふるふると首を横に振った
「…あなたは、私を護って下さいました」
「……………」
「それに、ずっと見ていて下さった」
「でも、それだけだ」
「それだけで十分なんです
私のことを見て、心配して下さる方がいて
それだけで、私には十分なんです」
「名前…」
「今回だって、身を挺して私を護って下さいました」
震える細い腕がゆっくりと俺の背中を抱き締めた
俺はもっと強く彼女を抱き締めた
「…だが、やはり俺が悪かった
もっと早く君に話していれば良かった」
「いいえ、これは自分で思い出さなければいけない記憶でしたから」
「………」
「…赤司さん」
「ん?」
腕の中から聞こえた涙声
少しだけ身体を離すと、
頬を濡らした彼女の顔が見えた
「…一つだけ、お願いがあるんです」
「何だ?」
「…手、」
「手?」
「繋いでも、いいですか?」
泣きながらも笑顔で言った名前に俺もらしくもなく、何だか泣きそうになった
彼女の身体を抱く腕を片方解くと、
彼女も俺の背中に回していた腕を片方解いた
そして、お互いの指先を寄せて
俺たちは今まで重ねていただけのお互いの手を、初めて握り合った