第4章 恨み憎む男ー灰崎ー
―――今まで何人もの人間を殺めてきた君が、彼女になんて言うつもりだい?
その質問に俺はどう考えても答えられずにいて
葬式の後、誰もいなくなった墓地で彼女がたった独りで泣いている時でさえ
俺は彼女の前に姿を現すことができなかった
それから名前は村の奴らに引き取られた
…というよりは家を乗っ取られ、
冷たく暗い屋根裏部屋に押し込まれ
それでも名前は文句一つ言わずに一生懸命働いていた
そんな悲しみに苛まれながらの生活の中で
俺の存在は彼女の中から消去されていった
きっと両親を失った悲しみに加え、思い出の家を乗っ取られたストレスや憤りも原因としてあるだろうが
信じられないことに、あんなに毎日会っていた俺のことを名前はたった一週間で忘れてしまった
町であえてすれ違ってみたりしたが、
彼女は一度だって俺に気付かなかった
信じたくなかったが、俺は元々吸血鬼だ
所詮は吸血鬼と人間は馴れ合ってはいけなかったのだから
このまま、忘れたままでいてくれた方がいいのではないかと思った
だから、名前と俺の関係はたったの2ヵ月で途切れてしまった
とは言ったものの、俺はよく町に下りて名前の様子をこっそりと見に行っていた
もう言葉を交わすことはないとはいえ彼女が大切だという気持ちに変わりはなかったから
陰から見守るだけのもどかしさ
俺は情けない自分と戦い続けた
大切な存在があんなに苦しんでいるのに
随分世話になった俺は何も出来ないなんて
悔しくてたまらなかった
だが、だからといってどうしようもなくて、
そうやってただ見守るだけの日々が続いた
彼女は年を経る毎に美しくなっていったが
…それに反比例するように、愛想笑い一つ見せなくなった