第4章 恨み憎む男ー灰崎ー
「ですが……あの赤司さんが幻覚で良かった…」
「?」
「!い、いいえ、こちらの話です…」
わたわたと慌てる名前に思わず笑ってしまう
そんな俺を見た彼女は、また拳を握り締めて口火を切った
「…赤司さん」
「どうした?」
「私…、あなたに血を吸われて、思い出したことがあるんです」
「…………、」
ドクン、心臓が大きく鳴った
淡い期待が胸に広がっていく
「…私、ずっと忘れていました」
「なに、を?」
「…あなたのこと」
俺を見た彼女の瞳が潤んで揺れている
10年前の少女と、まったく同じ眼差し
そのひどく懐かしい感覚に、
俺の期待は現実へと変わった
「…私、ずっと…忘れたままで…」
「………」
「…全部思い出しました
銀色の鈴の行方も、楽しかったお喋りも
…好きだった、男の子のことも」
「…名前……」
つ、と頬を滑る雫を拭って、彼女は続けた
「…私、ずっと、思い出せなかった…っ!」
ごめんなさい
あんなに近くにいたのに
誰よりも傍にいたのに
そう言ってまた泣き出した名前の頭を、俺も上半身を起こして優しく撫でた
…思い出してくれたんだな
この瞬間をどれほど待ちわびただろうか
やっと
やっと通じ合えた…
「ごめんなさい…」
「君は悪くない…悪いのは俺の方なんだ」
そう
名前の両親が亡くなったあと、
彼女から離れていったのは俺自身だ
2人の葬式の時
怪物の俺は当然参列できず、その様子を物陰から窺っていた
数少ない参列者の間から見えた横顔にはいつもみたいな笑顔はなかった
光のない瞳で2人の墓を見つめる彼女
一緒にいてあげたかった
傍にいてあげたかった
…いや、そうしなければいけなかったのだ
それでも、いざ彼女の前に出て行こうとすると
頭の中で俺が言った