第4章 恨み憎む男ー灰崎ー
…まったく憶えていない
それではつまり、俺は意識のない状況で本能のままに血を吸ったのか
ちらり、彼女の顔を見た
…憶えていないとはいえ、吸ってしまったのか
もう二度と飲まないと決めていた彼女の血を
「…すまない…」
俯く横顔に言うと、ハッとしたように顔を上げた名前が千切れそうなくらい首を横に振った
「謝るのは私の方です!
私のせいで、あんなことに…」
「いや、悪いのはあの怪物使いだ」
「…ごめんなさい……っ」
ああ、また俯いてしまった
そんな彼女に、俺は先ほどから気になることを聞いた
「名前」
「…はい」
「どうして屋敷の外に出たんだ」
「そ…それ、は……」
更に俯く名前
声もどんどん小さくなった
「…騙されたんです」
「…どういう事だ?」
「あの、灰崎さんという方に騙されたんです」
「…騙された…?」
「昨夜…私、赤司さんが外に出掛けていくのを見たんです」
「……俺を」
昨夜って、一悶着あった夜だろう
じゃあ俺は丸一日寝ていたのか
…それよりあの夜、俺は出掛けてなどいなかった
名前を部屋に帰したあと、真っ先に寝たはずなのだが
そこまで考えて気付いた
……そういうことか
「それは、」
「…灰崎さんの、幻覚でした」
ああ、やはりな
「私、てっきり赤司さんだと思ってついて行ったんです
森を抜けて、町まで下りて、赤司さんが町外れの家に入っていくまでずっと追い掛けたんです」
「…町外れだと?あんなところには家はないよ」
「ですから、その家も幻覚で…っ」
…なるほど
それで捕まったのか
にしてもあの男、俺の屋敷の中にまで幻覚を使うとは本当にいい度胸だ
屋敷の周りに結界でも張ってやろうか