• テキストサイズ

めいこい✳︎スピンオフ

第1章 一、後押し。


「そんなにおかしな質問をしたつもりはないのだが…。」

これを使いなさい、と鴎外さんは手拭いを渡してくれる。
私は口元を押さえながら、困り果てた視線を鴎外さんに向けた。

「どこまでと言われましても…何と説明すればいいのか…。」

「深く考える必要はない。人それぞれ、恋人同士にもそれぞれペースというものがあるだろう?」

「はぁ…。」

「…お前たちは反応までよく似てきている。春草は、別格特に臆病というわけでもなく、少し淡白なところはあるが、お前に対しては興味が充分にあるようにも思える。いや、恋人同士だ、興味があって当然ではないか。」

つまり…。
鴎外さんは何を言いたいんだろう。

よそった白いご飯の上に、私は焼き鮭を乗せて鴎外さんの次の言葉を待った。

「子リスちゃん、春草の部屋にお前が訪ねている様子もなければ、春草がお前の部屋を訪ねている様子もない。これから先、夫婦になろうというお前たちが、このままでよいとは僕は到底思えない。正直に言いなさい。もう夜の営みは済んでいるのか。」

どこかの酔っ払いの親父が絡んでいるかのような内容だけど、鴎外さんの顔は至って真剣だ。
私は羞恥で染まりかけた頬を両手ではさみこむと、静かに首を横に振る。

…そうなのだ。
春草さんは、想いが通じ合ったあの日以来、きちんとした形で私に触れたことがない。
あのキスが最後と言っても過言ではない。
話はすれども、手を握り合うことすらせず、まるで友達、あるいは家族…そんな距離感を、春草さんと私は保っていた。

私は明治時代の恋愛をよく知らなかったし、街中を歩く時でさえ、未婚の男女が並んで歩くことが変わっているとも聞いていたから、それが…当たり前なのだと、そう思っていた。
が、どうやらそれは、鴎外さん的には違うらしい。

「…ふむ、よかろう。子リスちゃん、僕は今日、この後人と会う約束をしていてね。すぐに戻るとは思うが、少しばかり留守番をしていておくれ。」

何がよかろうなのかはよく分からないけれど、私は頷くと、立ち上がって自室に向かう鴎外さんを見送った。
/ 11ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp