第1章 片道恋慕
「あらあら和佳奈ちゃん、どうしたの?」
笹野さんが遅れてやってきても、和佳奈は相変わらず泣きわめくのを止めない。
「ダメなの!!!」
「何が?」
ボロボロ涙を流して、遠慮なくあたしの服で顔を拭こうとする和佳奈の背中を、落ち着けるために撫でてやる。
「チョコ!!!」
「えっ?」
ぐずぐずと鼻声になってきた和佳奈は、しゃっくり上げて言葉を続ける。
「おにいちゃっ、チョコ、あげるの・・・あたしだけなのー!!!」
暴れてポカポカあたしを殴る和佳奈。その顔は着飾ってきたのも無意味になる程くしゃくしゃだった。
・・・他の女の子に嫉妬した、ってこと?
和佳奈にとって、バレンタインデーのチョコ=本命であり、脳内に義理という文字はない。
つまり、恭輔君が知らない女の子から3つも本命チョコを貰ってきた、と思ったわけだ。
地区のみんなと遊んでる恭輔君しか知らない和佳奈にとって、よく知らないお姉ちゃんの存在は、それはそれは脅威なんだろう。
あたしと仲良しなはずのお兄ちゃんが、他の女の子からチョコを貰うなんて。
久しぶりに会ったお兄ちゃん。かっこよくなったお兄ちゃん。
最近遊んでくれなくなったお兄ちゃん。あたしの知らない世界で生きているお兄ちゃん。
独占欲が爆発した和佳奈は、他の人からのチョコを投げ捨ててしまった、と。