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片道恋慕

第1章 片道恋慕


どうにか泣き叫ぶのは止めた和佳奈を抱えて、今日は帰らせていただくことにした。
「恭輔君、本当にごめんなさいね。このお詫びは必ず。」
「そんな・・・いいっすよ。」
あたしにしがみついたまま、まだ泣くのをやめない和佳奈を見て、恭輔君は眉尻を下げる。
「でも、作ってくれた女の子に悪いわ。」
「まぁそうっすけど・・・所詮は義理ですし。」
はははっと乾いた声を漏らして手元のチョコを揺らす恭輔君は、言葉の割に元気がなさそうで、笑顔とは程遠い顔をしていた。
「和佳奈ちゃんにあれほど思われていた方が嬉しいっすよ。」
「・・・そう言ってくれるとありがたいわ。」
よかったね、と和佳奈に投げかけても、相変わらずあたしの肩に顔を埋めたままだった。
「それじゃあ、また近いうちにお菓子でも持ってきます。」
「ありがとうございます。おやすみなさい。」
閉じられていく玄関の向こうで、恭輔君はひしゃげたチョコを切なそうに見つめていた。



・・・チョコを贈ってくれた女の子達に申し訳ないと思っているのだとしたら、恭輔君はとても優しい。
義理でも女の子からチョコを貰えて有頂天だったのだとしたら、それはとても可愛らしいことだ。

でも、もしかしてだけど。

あのチョコのどれか1つが、彼の好きな人からのチョコだとしたら。
それがたとえ義理でも、気になる人からのチョコだったのだとしたら。
大切に大切に、しっかり味わって食べようとしていたのだとしたら。

「・・・なーんて、考えすぎよね。」
小さく呟いたあたしの声は、和佳奈に聞こえていたかどうか、それは分からない。
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