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片道恋慕

第1章 片道恋慕


取り残された部屋で、少し物思いに耽る。
「・・・独占欲、か。」
無いと言えば当然嘘になる。
今だって、夫婦の時間を大切に、「あたしからのチョコ」を食べて欲しいと思ってる。

何か失敗した時、体調が良くない時、心が弱ってる時、ワガママなまでに他人を求めてしまうことがある。
そうやって相手に迷惑をかけてしまって、謝罪や後悔を繰り返すこともある。
でもそれはとても人間的で、情熱的で、痛いまでに理解できる感情。
その激情を「馬鹿だなー!」なんて止める権利は、他人には無いと思うの。

あたしを愛してくれているはずの娘と夫が、それぞれ別に1番を見つけてしまったことを、寂しいと思うのは当然のことで。
これだけ愛しているのに愛されない・・・報われないことを悲しいと思うのは、我慢はできても消すことはできない、止めようのない感情なの。




でもね。
それでもあたし、割と幸せよ?


昨日は和佳奈が初めてキッチンに立ってくれたわ。
和佳奈を着せ替え人形のように着飾らせるのも、それはそれは楽しかったわ。
他人を愛することを覚えた和佳奈を、誰よりも近くで見守れたわ。
お隣さんが優しくて、あたしも和佳奈も愛されているのを再確認したわ。
それからほとんどあたしが作ったチョコを、恭輔君は美味しいって言ってくれたわ。
だから多分このチョコも、あなたは美味しいって言ってくれるに違いないわ。
さらに和佳奈がお父さんへの感謝を述べる様子だって、この目でしっかり見ることができるわ。
そしてあたしは、愛する夫と娘の笑顔を、一挙両得できちゃうの。





「あっち行けー!!!」
「イタッ!こらっ、枕を投げるな!」
寝室から親子ゲンカの声が響いて、あたしは1人笑ってしまう。

・・・ほら、こうやって楽しい毎日を過ごせてる。
それだけであたし、十分報われてるでしょう?


「さーて、仲直りしてもらいますかね。」
2人を繋ぐチョコを片手に、あたしは2人の待つ寝室へ向かった。
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