• テキストサイズ

片道恋慕

第1章 片道恋慕


タルトも食べ終えて、和佳奈は恭輔君の膝の上でご満悦の様子だった。
用事も終えたんだからお暇すべきなんだけど、いかんせん頑固なもので。
「お父さんも帰ってくるし、あたし達も帰るわよ?」
「やだー!!!」
離れない、というより、もはや剥がれない。
「もう、この子ったら・・・。」
「江本さん、いいじゃない。なんなら和佳奈ちゃん、うちでご飯食べていく?」
「おにいちゃんといっしょにごはん!?」
純粋そのものの目を輝かせる和佳奈に、ご迷惑なんて言葉は通用しそうもない。
「そんな、悪いですよ。」
「大丈夫よ。どうせチョコなんて無縁な恭輔が、こんなに熱烈な本命チョコをいただけたんですもの。お礼しなくっちゃ!」
ねぇ?と恭輔君に話を振る笹野さん。恭輔君は少ししかめっ面。
「あんたもキムタクみたいにイケメンだったり、賢かったらモテたんだろうけどねぇ・・・。」
「ちょっと待てよ。俺だってチョコぐらい貰ってるよ。」
え?と空気が変わって、和佳奈が膝から降ろされる。

「ほらこれ、3つ。」
学校のカバンから出てきたのは、市販の小包装チョコと、透明な袋にリボンがかけられた小さな手作りチョコが2つ。
「あんたこれ、義理チョコじゃないの!」
「うっせーなぁ。まごう事なきバレンタインチョコだろ?」
「お母さん期待して損しちゃった!」
「俺なんかに期待してどうすんだよ!」
ぎゃーぎゃーと言い争う様は、どこにでもある家庭内ショートコント。
コタツの隅に追いやられたチョコは、この場においては笑いの種でしかなかった。

そう、和佳奈が立ち上がるまでは。

「和佳奈?」
突然険しい表情でコタツから立ち上がった和佳奈は、チョコを引っつかんで部屋を飛び出してしまった。
/ 14ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp