第1章 片道恋慕
ガチャッと扉が開く音が聞こえた。
「ただいまー。」
気だるげな恭輔君の声が響く。声変わりした?あんなに低い声だったっけ?
「おかえりなさーい!!!」
心臓が飛び上がりそうな大声で、和佳奈が玄関へ全力ダッシュ。
「うおっ!?・・・あー、和佳奈ちゃんかー!びっくりしたー久しぶり。」
「おにいちゃんおかえりなさい!」
「うん、ただいま。」
和気藹々とした声に、あたしと笹野さんは飛び上がった胸を撫で下ろしつつ、微笑んでしまう。
「チョコ、出しておいてあげましょうか。」
「お願いします。」
2人が部屋に戻ってきて、恭輔君は荷物を下ろしつつ、そのままコタツへ直行。
「あ、江本さん。どうも。」
恭輔君の声はやっぱり低くて、顔もお父さんそっくりになっていた。
「恭輔君、すっかり大人の男性になっちゃったわね。」
「そうっすかね?」
「おにいちゃん、なんかかっこよくなったー!」
和佳奈が飛び込むように恭輔君の隣に座って、あらやだ、仲良しさんね。
ふぅーと息をついた恭輔君が、膝で甘える和佳奈を見下ろす。
「で、和佳奈ちゃんどうしたの?もうだいぶ遅い時間だけど。」
和佳奈は「あっ!そうだった!」と言わんばかりに飛び起きた。
「おにいちゃんにプレゼントあるの!」
ダッシュでキッチンに駆け込む。この時のために着飾ったスカートが揺れた。
和佳奈は笹野さんからチョコを半ばひったくるように受け取った。
それを必死に背中に隠して、サプライズのつもりで恭輔君の元へ。
・・・恭輔君!バレバレなのは分かるけど、もうちょっと表情隠して!
和佳奈はジャジャーンと効果音付きでチョコを差し出す。
「はい!バレンタインデーのチョコ!」