第1章 片道恋慕
中で待ってていいわよ、という笹野さんのご好意に甘えて、あたし達は上がらせていただくことにした。
「チョコは冷蔵庫に入れておいてあげるわね。」
「ありがとうございまーす!」
笹野さんに付いて回る和佳奈。チョコが冷蔵庫に収まったことをしっかり見届けた。
「和佳奈ちゃんは、恭輔のどこが好きなの?」
先ほどまでしていたんだろう夕食の準備を再開しながら、笹野さんは楽しそうに尋ねる。
「んっとねー、かっこいいよ!」
その隣で鍋を見つめる和佳奈は、屈託なく即答した。
「あの子、別にイケメンじゃないわよ?背が高いとかでもないし。」
「でもかっこいいんだよー!」
ムキになって怒る和佳奈は、笹野さんの腰にしがみついて猛反論。
・・・確かに恭輔君はイケメンかと聞かれたら、中の上ぐらいの顔だけど。
でもなんていうか、いい顔していると思う。
例えるなら、「おばあちゃんに好かれそうな顔」とか、「パン屋さんにいたら絶対美味しいパン屋さんだと思っちゃう顔」みたいな。
「あとねー。かけっこはやいし、かしこいし、あそんでくれるよ?」
「賢くないわよー!部活ばっかりして、テストはいっつも真ん中より下。」
「でも、まーくんにさんすうおしえてたよ?」
まーくんとは、ご近所の小学5年生の男の子だ。彼も恭輔グループの1人。
「あらっ、あの子ったらそんなこともしてたの。」
笹野さんは「恭輔が人に勉強を教えるだなんて。」と笑い声をあげた。
和佳奈が恭輔君を好きになった理由は子供ならではのもので、よくある淡い憧れなんだろう。
・・・言ってしまえば、大きくなったら恥ずかしくてたまらなくなる黒歴史。
それでも7歳の和佳奈にすればそれが全てで、一途に想い続けたことも本当の気持ち。
そんな気持ちを応援してあげるのは、大人として当然のことじゃないかしら?