第1章 片道恋慕
ピンポーン・・・。
「はーい?」
扉が開いて、お隣の笹野の奥さんが出てきてくださった。
「あら江本さん。どうされたの?・・・あらー和佳奈ちゃん!」
笹野さんが笑顔で手を振って、和佳奈も「こんにちは!」と挨拶。
「突然で申し訳ないんですけど、恭輔君はいらっしゃいますか?」
「あの子ならそろそろ帰ってくると思うけど・・・何か用事?」
「おにいちゃんにチョコあげるの!」
和佳奈が声を荒げて、なぜだかあたしが少し恥ずかしくなる。
「きょうバレンタインデーだからね!おにいちゃんにチョコ作ったの!」
「まぁそうなの!江本さんすみませんねぇ、うちのバカ息子にわざわざ・・・。」
「いえいえ。私としましても、いつも遊んでいただきましたから。」
お隣さんの恭輔君は、高校1年生の男の子。
そして、和佳奈のチョコをあげたいお相手。
彼はこの地区のガキ大将みたいな子で、数年前は近所の子供達を束ねて遊びまわっていたものだった。
近所に同い年がいない和佳奈もよく遊んでもらって、どこにでも付いて回っていた。
さすがに高校生にもなると、学業や思春期など様々な理由で、あまり遊ばなくなったけれど・・・。
和佳奈、もう長い間まともに会ってないのに、一途に想い続けてたってわけね。
「和佳奈ちゃんがチョコ作ったの?すごいわねー。」
「しょうがくせいだもん!チョコぐらいつくれるよ!」
まぁ、気取っちゃって。笹野さんと一緒になって笑う。
「もしかして本命?それとも義理チョコ?」
笹野さんの質問に、ポカンとした顔の和佳奈。
「ホンメイ?ギリ?」
「笹野さんは和佳奈に、本当に恭輔君の事が1番好きなのか聞いたのよ。」
和佳奈があたしを見上げてパッと笑顔になった。
「いちばんだよ!だってバレンタインデーって、いちばんだいすきなひとにチョコをあげるひのことでしょ?」
あたしは笹野さんと目を合わせて、なんとなくお互い赤くなって笑い合った。