第1章 片道恋慕
娘の和佳奈は、ようやく小学生になった7歳。
おてんばという言葉がお似合いで、いつもぴょんぴょん飛び跳ねたり踊ったりしているような女の子。
そんな和佳奈が3日前、学校から帰ってくるなり突然「チョコを作りたい」と言い始めたのだから驚きだ。
「おかあさん!あたし、バレンタインデーのチョコつくりたい!」
「・・・どうしたの急に?」
例年のバレンタインデーは、あたしが作ったチョコをお父さんにあげるだけで、友達にあげるような真似は(幼稚園の都合もあって)してこなかったのに。
小学生にもなれば、友チョコなんて話が横行してるのかしら?
「あのね、バレンタインデーって、すきなひとにチョコをあげるひなんでしょ?いっちゃんも、なっちゃんもいってた!」
いっちゃんなっちゃんというのは、和佳奈の学校のお友達だ。
「だからね、あたしもつくりたいの!」
「そっかー。」
少々驚きながら、あたしは娘の成長に頬を緩ませた。
晩御飯のお手伝いを頼めばいっつも逃げてしまう和佳奈が、おかし作りだなんて。
それも、恋する相手のために手作りチョコだなんて!
「分かった。13日に作ろうか。」
「やったー!」
ぴょんぴょん飛び回る和佳奈は、「ケーキがいい!」などと言いながらはしゃぐ、はしゃぐ。
・・・好きな人だなんて、いつの間にそんなに成長しちゃったのかしら?
子供はいつの間にか親離れしてる、なーんて言うけれど、本当に早いものなのね。
「で、誰に送るの?」
好奇心から尋ねてみると、和佳奈は動きを止め、恥ずかしそうに両手を頬に添えた。
「・・・ナイショにしてくれる?」
「うん、誰にも言わない。」
和佳奈はへへへーっと笑って、あたしの耳元に顔を寄せる。
「あのね・・・おにいちゃん!」