第1章 片道恋慕
ついに来てしまった。
2月14日。勝負の時、午後6時。
冷蔵庫からチョコを取り出す。そーっと、そーっと。
・・・大丈夫。ハート型のタルト生地に収まって、ガナッシュはつやつやと輝いてる。
簡単とはいえ試食が出来なかったから、そこは少し不安事項だけど。
チョコ、喜んでくれるといいわね。
真っ赤なギフトボックスと、綺麗なリボン。
今時はラッピング用品も充実していて、箱をスライドするだけで簡単に包装が完成してしまう。包装紙で包んだりしなくていいなんて、便利なものだ。
おかげさまで、不器用なあたしでも可愛らしいラッピングが出来ました。
ハートのカードも添えて、チョコが完成した。
・・・なんだか緊張するわね。
チョコを渡しに行こうとエプロンを脱いだところで、突然ドキドキしてきた。
思わずチョコを再度確認。箱をスライドして、先ほどと変わらない中身を2度3度。
服の埃チェック。パタパタとスカートをはたく。意外と埃が飛び散って、違うスカートにしようかと悩んだけど、時間が無いから止めた。
髪型よし。服装よし。チョコよし。
・・・笑顔、よし。
「さぁ、行こうか。」
靴に足を通して、玄関を開ける。
「おかあさん!はやく!」
本日の主役である、娘の和佳奈とともに。