第1章 片道恋慕
「で、俺へのチョコは?」
ワクワクとした顔でこちらを見てくるお父さんは、間違いなく和佳奈の父親だと思わされた。
「あるわよ。ちょっと待って。」
食器洗いの手を止めて、冷蔵庫からラム酒入りのビターな生チョコを取り出す。
中身、よし。
ラッピング、恭輔君へのチョコと一緒だからよし。
服装、エプロンだけど許してください。
笑顔、いつもより余計に笑っております。
和佳奈の真似して、背中に隠して近寄ってみる。
ジャジャーンと効果音付きで、お父さんの前にお目見え。
「はい、いつもありがとうございます。」
出てきたチョコを見て、お父さんは一瞬「おっ!」と声を上げるけど、すぐに元の顔に戻ってしまった。
「和佳奈からじゃないの?」
「え?」
「ほら、毎年和佳奈から貰ってただろ?」
突然の大人気ない駄々のコネ方に、あたしは思わず顔をしかめてしまう。
そう、毎年バレンタインは、あたしが作ったチョコを和佳奈からという形でプレゼントしていたのだ。
「お父さん、いつもありがとう!」
「おぉー!ありがとうなー和佳奈!」
親バカなお父さんは、それはそれは嬉しそうに鼻の下を伸ばし、ホワイトデーのお返しに励んでいたものである。
・・・まぁ、子煩悩なのは良いことだけどさ。
あたしへのお返しが無いのは、いかがなものかと思いましてね?