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片道恋慕

第1章 片道恋慕


「そんなことがあったのよー。」
「そりゃあ・・・大変だったな。」
あたたかい我が家で、あたしは帰ってきたお父さんに食卓で全てを報告した。
「女性は独占欲とか嫉妬とか、そういうところが怖いってよく言うよな。」
「あら、あたしもそうだったのかしら?」
「君はそんな感情的なタイプじゃないし、そもそも俺がモテるような奴じゃないからなー。」
笑って晩酌を楽しむお父さんは、チラリとリビングのソファーに視線をずらした。

「もう、和佳奈。いい加減にご飯食べなさい。」
何度このやり取りをしても、和佳奈はソファーでブランケットを被ったまま一言も答えない。
「和佳奈がこんなに拗ねるのっていつ以来だ?」
「2年前、あなたが和佳奈を水族館に連れていく約束を、仕事でドタキャンした時以来よ。」
「あー。そんなこともあったなぁ。」
呑気に笑う父親に怒りをあらわにするように、和佳奈がもぞもぞと蠢いた。
「あれは悪かったと思ってる。でも、埋め合わせだってちゃんとしたじゃないか。」
「そういうのって、最初に受けた衝撃が大きいのよ。埋め合わせされたって、悲しい気持ちはなかなか消えないでしょ?」
ましてや当時幼稚園児だった和佳奈に、お父さんの仕事の忙しさへの理解や、埋め合わせで許してやれって要求をする方が酷でしょうに。
「まぁ・・・そうだけど。」
「人付き合いって、タイミングがモノを言う時もあるのよ。」
「・・・なんだか哲学者みたいだな。」
「あら、ありがとう。」
食べ終わった食器を片付けに、あたしはキッチンへと立ち上がった。


・・・タイミング、か。
たとえば和佳奈に、本命チョコと一緒に義理チョコの意味も教えていたなら。
たとえば恭輔君が、学校でチョコを食べ切っていたとしたら。
こんなことは起こらなかったのかな、と思うのは、無意味でしかないのかしらね?
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