第1章 片道恋慕
「和佳奈ー、俺へのチョコはー?」
甘い声で呼びかけるお父さんに、和佳奈は反応1つ見せない。
「おーい。ほら、くれよー。」
「やだ!!!」
和佳奈はうずくまったまま大声を上げる。
「バレンタインはいちばんすきなひとにあげるひだから、おとうさんにはあげない!!!」
ご機嫌斜めどころかひっくり返りそうな和佳奈は、素早く起き上がって寝室へ逃げ出してしまった。
「あらあら・・・フラれちゃったわね。」
クスクス笑いが漏れてしまう。ごめん、でも笑っちゃうわ。
お父さんはというと、茫然自失の4文字がぴったりな表情。
「やだって・・・。」
がっくり肩を落として、真っ白に燃え尽きたご様子。
「ショックだ・・・今日1日これだけを楽しみに生きてきたってのに・・・。」
「明日になれば機嫌も直ってるわよ。明日貰ったら?」
「明日じゃダメなんだ!今!バレンタインデーじゃなきゃ!今こそそのタイミング!」
ダンッ!と机を叩いて起き上がるお父さんに、あたしの心臓は今日何度目かのハイジャンプ。
「だいたい他の男にあげてるってだけでも許せないのに!あれだ、和佳奈はどこへも嫁に出さん!」
和佳奈に負けるとも劣らない独占欲に、さすがに面食らって呆れ声が出ちゃう。
「それ本気?」
「半分ネタだけど、嫉妬してるのは事実だ!」
荒々しく椅子を引いて、部屋を出て行ってしまう。
「どこ行くの?」
「寝室!機嫌を直してもらって、何が何でも今日チョコを貰うんだ!」
君だって愛娘の笑顔を見たいだろう!?そう言い残してリビングの扉が閉められた。
・・・あなたがこれから貰う予定のチョコは、ここにあるんですけど?
「まぁ、和佳奈の笑顔は見たいけどね?」
あたしはそれ以上に、チョコを美味しいと食べてくれるあなたを見たいだなんて、思ってたりするのよ?