第1章 苦いお菓子
「…………」
「…………」
沈黙が重すぎる。
何かを言わなければ。
だが、何を言えばいいかわからず躊躇してしまう。
とにかく何かを言おうと、俯いていた顔を上げたとき、すっと目の前に差し出される箱。
「……え?」
「これ、バレンタインの……」
目を泳がせながら渡された箱を、わけのわからぬままとりあえず受け取る。
「……ありがとう」
結局、何を言えばわからないので、とりあえず礼を言う。
何が何だかわからない。
疑問に思ったことがあったので、訊いてみる。
「……由島」
「由島君がどうしたの?」
「さっき、あいつに渡したのは?」
「え、あれは義理だよ、義理! 昨日、スーパーで買ったやつ! ほら、私と由島君、同じ委員会だからその繋がりで。昼休みに一緒にいたのも、たまたま会っただけだし!」
そういうことだったのか。
思わず肩の力が抜け、ほっとため息をつく。
それと同時に、もう一つ疑問が浮かんだので口にしてみる。
「いや、でも、ここ数日のよそよそしい態度は?」
「え、あの……それは、その……失敗しちゃったんだよね……それ……」
秋音の視線が、俺の手元にある綺麗にラッピングされた箱へと移っていく。
「何日か前から、なんどか作りなおしたんだけど、それでもちょっと焦げちゃって……。いつ渡すかタイミングもつかめなくて……本当、ごめん」
昼休みの、その前からの、あのよそよそしくて意味不明な言動は、手作り菓子を失敗したせいだったのか。