第1章 苦いお菓子
「これ、よかったら。……まあ、由島君は、沢山もらってるから、いらなかったらいいよ」
「えぇー、いいんですか? じゃあ、遠慮なくもらいますよ。びっくりしましたよー、マジで」
人の良さそうな笑顔で秋音から箱を受け取る由島。
落ち着いていた感情が昂り始め、嫉妬の雲が再び湧いてくる。
「それよりも、崎原先輩に渡さなくていいんですか?」
由島が俺の名前を口にして、秋音に尋ねかける。
ちらりと、希望の光が雲の間から射しこんできた気がする。
だが、秋音は俺にとって予想外の答えを返した。
「えー……祐樹にかぁ……」
しどろもどろと、歯切れの悪い返答を口にする秋音。
なんで、そんなに狼狽しているんだ。
「まあ、桜庭先輩にも都合がありますよね。じゃあ、僕はこの辺で失礼します。もうすぐ部活も始まるし。それに、ほら、崎原先輩の機嫌をとってこないと、ふられちゃいますよ?」
「え!?」
秋音が勢いよく振り返り、俺と目がしっかりと合う。
「祐樹……」
由島が颯爽と女子達を連れて出ていくと、廊下が一気に静かになる。
お互い固まったまま何も言えずに、見つめ合うしかない。
言いたい事や、尋ねたいことはたくさんあるのに、口の中が渇き、結局何も言えなかった。
「え、えーっと……、とりあえず、別の場所に行こっか」
苦笑い浮かべ、俺の手をとって歩きだす秋音に、連れられるまま、裏庭へとつく。
相変わらず人気は少なく、ひんやりとした風が俺と秋音の髪を揺らす。