第1章 苦いお菓子
振り向くと、秋音は真っ赤な顔で俯いていた。
「……?」
「えーっとさ……、その、心構えっていうか……」
「は?」
「まだできてないから、いろいろゴメンっ!」
「おい、秋音……!?」
パッと俺の手を振りほどき、廊下へと全力疾走して消えていく秋音。
まったく何が言いたいのかわからなかった。
「あらら、大変ですねー、崎原先輩。女心に疎いっていうのは」
後ろで由島が憎たらしい事を言うが、事実でもあるので、反論はできない。
俺は、その場に唖然として立っているしかなかった。
▼◇▲
授業を終える音楽が、教室の上部に取り付けられているスピーカーから流れる。
それと同時に、またもやふわふわとした空気が漂い始めた。
だが、俺の機嫌はあまり――いや、かなりよくない。
原因はもちろん秋音の事だ。
昼休みの後も、ずっと存在をスルーされ続けている。
いいかげん問い詰めたいところだが、俺に非があるなら、そうすることなんてできない。
原因がわからないまま、時間だけが流れる。なんでなんだ。
「起立、礼、着席」という、聞きあきた声の通りに行動する間も、もやもやとしっぱなしだった。
由島の事もあり、なお醜い嫉妬と膨れ続ける不安が、ぐらぐらと心を揺らす。
「よーし、じゃあ、朝没収したチョコを返却する。私の前に一列に並べ」
烏山が、紙袋に入った箱を女子達に返していく。
もちろん、適当に返却するものだから、間違えが起こり、「あれ、これ私のじゃない!」「あっ、それあたしの」と軽い混乱状態に陥っている。