第1章 苦いお菓子
楽しそうに笑っている秋音。
ここ数日、俺に見せてくれない笑顔。
それが、後輩である由島に向けられている。
自分の中で、何かが湧きあがってくる。
質量をもっていないはずなのに、どろどろとしていて重たい感情。
それが「嫉妬」だと気付くのに数秒かかるが、一度膨れ上がった思いは抑えつけることができない。
なんで自分と目が合うと逸らす。
なんで俺と一緒にいるよりも、こいつと一緒にいる方が楽しそうなんだ。
なんで、なんで――――
「……秋音」
自分でもぞっとするほど低い声が出てしまう。
秋音がはっとして振り返り、由島が「崎原先輩じゃないですか」とわざとらしい言葉をかける。
「祐樹……なんでここに?」
「それは俺のセリフだ」
苛々として彼女の手首をつかむ。
どうして由島と仲良く話しているのか、それを早く聞き出したかった。
「やー、崎原先輩、彼女に乱暴はよしたほうがいいですよ。ってか、別に、僕と桜庭先輩は崎原先輩が思っているような関係じゃないし」
由島がやれやれと肩をすくめるが、正直言ってこいつの話は聞きたくなかった。
とにかく、今は秋音と2人きりになりたい。
「ちょ、ちょっと待って祐樹!」
慌てたような秋音の声に、思わず足を止める。