第1章 苦いお菓子
「まあ、食べるのは冗談だが。いったんチョコは全部私に渡せ。授業が終わったら、返してやるから」
NOと言わせない空気を身にまといながら、烏山が女子達を睨みつける。
本当にこいつ女か。迫力が半端ない。
女子達がしぶしぶカバンの中から、綺麗に包装されたチョコレートらしき物を取り出すのを横目に見ながら、俺はため息をつく。
恋人である秋音の方に目を向けると、ちょうど烏山に預け終わったのか、席につくところだった。
そして、俺とぱちりと目が合う。
「!」
びくっと明らかに肩をはね上げ、俺から目を逸らす秋音。
その態度にいらっとする。
ここ数日、一緒にいてもそわそわしているし、声をかけても上の空な返事しか返ってこない。
何か機嫌を損ねるようなことをしてしまったのかと、自分の言動を思い返してみるが、特にこれといった事はない。
本当にどうしてなんだ。
▼◇▲
昼休み。
普段なら一緒に秋音と食事をするところだが、今日は姿が見当たらない。
友人と食事をする気にもならず、とりあえず中庭へ出て行こうとした時、よく聞き慣れた声が耳に入る。
「あはは、でも君は沢山もらってそうだよねー」
カラコロと楽しそうな笑い声に足を止めて、体を強張らせる。
体の向きを変え、声のする方へとそっと歩いて行く。
別に足音を忍ばせる必要はないのだが、思わずそうしてしまう。
「っていうか、君はここにいても大丈夫なの? 女の子達が心配してるんじゃないの?」
「別に大丈夫ですよ。ちょっとぐらいいなくても。それに僕は桜庭先輩と一緒にいたほうが好きですし」
「またまたご冗談を」
廊下の角から声のする方を覗き見ると、そこにいた2人の人物に、ますます心臓の鼓動が速くなっていく。
屋上へと続く階段に座っているのは、1学年下の由島俊介。
学年で一番モテるということで噂になっているこいつが、なんでここに。
それよりも、その前に立っている秋音の姿の方が俺には衝撃的だった。