第1章 苦いお菓子
心中でぶつぶつ言うも、それで女子達がお喋りをやめるわけでもなく、逆にヒートアップしているような気がする。
教室を出ていきたくとも、あと数分で教師が来るという状況では、そうすることもできない。
「おはよー! よし、先生来てないね! 間にあった……」
教室のドアを開けて入ってくる一人の女子生徒。
チェックのマフラーを首からはずしながら席へと付く彼女の姿を、思わず目で追ってしまう。
「秋音ー、おはよーさん! 突然だけどチョコ持ってきた?」
数人の女子達が、席へと付いた女性生徒――桜庭秋音の周りに集まる。……女子の迫力にのまれて、挨拶をし損ねてしまった。
ここからじゃ、秋音の姿は見えないが、「えー?」という返答を聞き、彼女がはにかんでいるのが目に浮かぶ。
「内緒」
「持って来たんだね!? 本命!? ……って、彼氏いたよね」
一人の女子がちらりと俺を見て、ニヤッと笑う。
なんだか腹の立つ笑い方だな。
「彼氏にあげるの?」
「うーんとね……」
秋音がお茶を濁すようないい方をした時、教室のドアが一気に開かれた。
同時になる授業開始の鐘の音。
「さあ、さっさと席に付け! バレンタインだからと言って、学校は休みじゃない! ちなみにうちの学校ではチョコの持ち込みは禁止だ!」
朝っぱらから大声を出すのは、担任である烏山。
一応性別は女だが、見た目、性格、喋り方からして到底女とは思えない。
「チョコを持ってきている奴は、今すぐ私に渡せ。じっくりと食ってやろう」
「「「えー!」」」
当然のごとく女子からブーイングの嵐が起こる。
一部の男子からは、安堵の空気が溢れだしているが。