第1章 僕は君のことを知らない
「そういえば…昨日ごめんね」
とりあえず僕は昨日のことを謝る。
「え?」
「失礼なことを言ってしまって…」
「いいよ、って言ったのに」
彼女がクスッと笑う。
本当に「いいよ」って思ってるのか、確かにLINEではわかりにくいな。
「気にしてないよ」
優しい微笑みを、彼女が僕にくれた。
まさに女神…。
僕の心が温かくなる。
「それに…」
彼女が少し恥ずかしそうにうつむく。
「少し嬉しかった。綺麗って言ってくれて。私のこと」
途切れ途切れに彼女が打ち明ける。
誰がどう見ても綺麗だろう。
彼女は自分の唇に、そっと人差し指を当てる。
形のいい下唇が、ぷにっと崩れる。
「私、人に綺麗とか言われるの、そんなに嬉しくなかったんだけど…。好きな人に言われると…嬉しいんだね」
うつむいたまま彼女が言う。
僕は…僕は…。
しばらくただ、彼女のその愛らしい様を眺める。
「…なぜ僕なんだろう」
「え?」
僕のつぶやきに彼女が顔を上げる。
「僕は…僕は…君のような人に好きになってもらえるような人間じゃないよ…。どうして…?」
怖いんだ。
僕は怖いんだ。何もかも。
わからなすぎて、怖いんだ。
「理由いる?」
彼女が僕の顔を覗き込む。
「人を好きになるのに…理由いるかな?」
人差し指を唇に当てたまま、彼女は首を傾げる。
僕はぼうぜんと彼女の顔を眺めた。
僕は彼女のことを知らないんじゃない。
恋のことを知らないんだ。