第1章 僕は君のことを知らない
「また明日、会いに来てもいい?」
と彼女は言った。
「僕が行くよ。君の家の近くの公園まで」
と僕が言うと、彼女は嬉しそうな顔をした。
僕はわからない。
だけど僕は彼女と話をしたい。
…
僕たちは夕方の公園で話をした。
話が弾む日もあったし、特に話さない日もあった。
彼女は別に話さなくても平気と言った。
話すのは得意じゃないらしい。
「その割には友達たくさんいるね」
って僕が言ったら
「私の友達はみんな話すのが得意。だから私が話す必要がない」
らしい。
僕たちは笑った。
20分ほどで別れることもあったし、とっぷり日が暮れるまで話し込んでしまうこともあった。
暗くなってしまうと、僕は彼女の家の前まで送った。
暗くなった道を彼女と歩く。
僕は彼女の手を握った。
彼女は僕の顔を見て微笑んだ。
…
自室の勉強机に座り、僕はぼんやりと考える。
彼女は僕に手作りのクッキーをくれた。
僕も彼女に何か贈りたい。
僕に作れる何かを贈りたい。
僕に何が出来るだろう。
…
僕は絵を描いた。
夕方彼女に会って、家に戻ると机に向かい絵を描いた。
彼女の姿を思い出し、絵を描いた。
毎日、少しずつ。
僕の画力と24色色鉛筆では、到底彼女の美しさは表現しきれないだろう。
だけど僕は描いた。
彼女のことを知りたいし、彼女に僕のことを知ってもらいたいから。