第1章 僕は君のことを知らない
「だめ…じゃない! って…でも…僕は…君のことを知らない…から…」
高鳴る鼓動にくじけそう。
僕は言い訳? をする。
「松井ちなみ。2年B組」
彼女が言う。
「あ、いや知ってる…。それは」
僕は答える。
「何を知りたい?」
引き続き、彼女は僕の目を見つめる。
吸い込まれそう。彼女の瞳に。
「えっと…」
僕は口ごもる。
何を知りたい? わからない。
交際することを決めるのに、何を知ればいいのだろう。
彼女がスカートのポケットからスマホを取り出す。
そして僕の目の前で振る。
「LINE?」
「あっ、うん」
僕もポケットからスマホを取り出した。
…
僕たちはLINEのIDを交換した。
放課後、ちょくちょく彼女からメッセージがくるようになった。
『何してるの?』
『宿題やった?』
みたいな様子を伺うメッセージから
『好きな食べ物、何?』
『小学生のとき、よく遊んだ公園は?』
みたいな、どうも脈絡を感じない質問までいろいろ飛んでくる。
僕はなんとかそれに返事するので精一杯だった。
僕も何か質問してみるべきだろう。
僕は考える。
そして送る。
「趣味は何?」
すぐ返信がくる。
『特にない』
…ないんだ。
返事に困っていると、もう一度彼女からメッセージ。
『鈴木くんは? 趣味ある?』
…確かに改めて聞かれると、答えに戸惑うな。
少し考えて返信。
「読書かな」
『かっこいい』
いや、別にかっこよくはないだろう…。