第1章 僕は君のことを知らない
翌朝。
いつものように教室の自分の席に着く。
人の気配に顔を上げる。
松井ちなみだ。
相変わらずの美少女ぶり。
なんだかいい匂いまでしそう。
おはよう、と言えばいいのだろうか。
躊躇しているうちに先に彼女が口を開いた。
「食べた?」
……。
昨日のクッキーのことだ。
僕は答える。
「食べてない」
彼女の顔が一瞬曇る。
美しい。
彼女の整った顔が憂いを帯びて歪む様は、それはそれは美しかった。
僕は思わず、じっと見惚れる。
彼女はそんなこと気にする様子はない。
きっとその綺麗な顔をジロジロ眺められることに慣れているのだろう。
彼女は僕に問いかける。
「どうして?」
「…なんだかもったいなくて」
僕の答えに彼女は首を傾げる。
そして言う。
「食べて」
「うん」
僕は頷く。
彼女はくるっとひるがえり、去っていった。
空気が動くと、やっぱりいい匂いがした。
…
家に帰って、昨日もらった箱を再び開ける。
ハート型のクッキー。
このクッキーも、もしかして手作りだろうか。
持ち上げてみる。
甘い匂いがする。
ひとくちかじる。
優しくて素直な味。
甘い。
チョコでかかれた「LOVE」の文字が目に入る。
……。
僕はどうすればいいのだろう。