第1章 僕は君のことを知らない
放課後、家に帰った僕は、カバンからその小さな箱を出す。
可愛らしい小さな箱は、なんだか輝いてる。
いくら縁がなくても、今日がバレンタインデーだということは知っている。
世の中に義理チョコという習わしがあることも。
しかし僕の人生には義理チョコさえ縁がなかった。
それに、クラスも部活も出身小学校も違う彼女。
僕に何の義理があるのだろう。
わからないまま僕は包みを開ける。
金色のリボンを解く感触は思いのほか気持ちよかった。
テープとハート型のシールでとめられた包装紙を、僕は丁寧に開く。
白い箱の上に小さな封筒。
メッセージカード…?
箱とカード、どちらを先に開くべきだろう。
一瞬悩む。
とりあえず箱の蓋を開く。
10cm弱の大きさのハート型のクッキーが1枚、大事そうに箱に収まっている。
そしてチョコで、おそらく手書きで
「LOVE」
と書かれている。
思わずバッと蓋を閉める。
心臓がドキドキしている。
ひどく。
どうしたらいいかわからないまま、僕は封筒からカードを取り出す。
……。
鈴木涼介くんへ
好きです
松井ちなみより