第1章 僕は君のことを知らない
2月14日、朝。
いつも通り学校に登校した僕は、自分の席に座る。
教科書やノートを机にしまう。
いつものように。
だいたい僕の人生に変わったことはおきない。
それは14年生きて、僕が学んだことのひとつだ。
少し眠い。
昨夜、ベッドの中で1時すぎまで本を読んだ。
僕のような平凡な少年が異世界にトリップするラノベだ。
僕も異世界に行きたい。
でも僕は本当に平凡すぎて、彼らのように上手くやれないだろうな。
ふと、人の気配に顔を上げる。
僕の机の前に、目の覚めるような美少女が立っていた。
彼女は、冷たく、透明な視線で、僕を見下ろしていた。
「……」
彼女の顔を見上げる。
僕は彼女の顔を知っている。
彼女の名前も知っている。
有名人だからだ。
うちの中学のアイドルと言っても過言ではない。
2年B組の松井ちなみ。
隣のクラスの美少女。
僕とはまったく違う、華やかな世界に住む人物。
その彼女が僕の目の前に立っている。
無言で。
「……」
当然のことながら僕も無言だ。
こんな美少女を前に発するべき気のきいた言葉を僕は知らない。
彼女は背中に隠していたらしき小さな箱を、僕の机に置いた。
平べったい小さな箱。
赤い包装紙、金色のリボン。
僕はその箱を見る。
そしてもう一度、顔を上げて彼女の顔を見る。
僕の顔を無表情に見つめていた彼女は、少しだけ唇をきゅっと結び直す。
そして
何も言わず、その場を立ち去った。
彼女の後ろ姿。
彼女の長い脚。
ハラリと揺れる短いスカート。
……。
なんだったんだ…。
僕にはまったくわからない。