第1章 僕は君のことを知らない
3月14日、ホワイトデー。
僕たちは今日も公園に来た。
「これ、ホワイトデーのプレゼントだよ」
僕はまず、小さなお菓子の紙袋を渡す。
「ありがとう」
彼女はとても嬉しそうに笑った。
僕も嬉しい気持ちになった。
「それとこれ…僕の描いた絵なんだ。よかったらもらってください」
僕はスケッチブックを差し出す。
彼女は紙袋をベンチに置いて、スケッチブックを受け取る。
そして表紙をめくる。
目を見開いて、彼女は絵を眺める。
「これは…もしかして私?」
「うん。君を想って描いたんだ」
僕は頷く。
とても恥ずかしいけれど。
「鈴木くんには、こんなふうに私が見えてるんだ」
彼女が絵を見てクスッと笑う。
「いや…! 実物のほうがずっと綺麗だよ…。僕の画力ではこんなふうにしか描けなかっただけ」
僕は慌てて言い訳する。
「ううん。私、嬉しいの。すごく。だってこんなプレゼントもらったの生まれて初めて」
彼女はスケッチブックを胸に抱えて目を閉じた。
僕は小さく息を吸い込む。
「僕、君のことが好きだ」
彼女はゆっくり目を開ける。
そして僕の顔を見る。
「私も好き。鈴木くんのこと」