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紅く染まる百合

第2章 接近


「お疲れ様」
休憩室で休んでいるササコに、コーヒーを差し入れる。随分と疲れているようで、いつものような笑顔がない。

「あっ、ありがとうございます、みゆきさん」
私が接近した事にすら気づいて居なかった様だ。驚いた顔でこちらを見る。

ふーっ、ふーっ、と紙コップに入ったコーヒーに息をふきかけると、こくんとひとくち飲む。

「なんだかお疲れみたいね。またクインクス班の事?」
私が訪ねると、横に首を振りうつむく。

「実は、先日のトルソーとオロチの戦いで、赫子を制御できなくて……結果両方をロストしてしまったんです」
悲しそうな声で言う。思い出してしまったのか、若干声が震えていた。

……やはり、半喰種というのは本当だったのか。
しかし、そんな隠しておきたいような事を話してくれるという事は、それだけ信頼をされているのだろう。胸の中が熱くなる。

「誰にだって失敗はあるって。次で挽回すればいいわよ」
そう言いながら、ササコの肩を優しく抱く。ふわっと甘い匂いが鼻孔をくすぐる。細くて軟らかい体。この中に、恐ろしい赫子があるとはとても思えない。

「……みゆきさん!」
突然ササコが抱きついてきた。軟らかい質量を持った胸が私の体に当たる。その瞬間ドキッとしてしまった。私にも同じものがついているというのに。

「うっ、ふぇっ、えっ、みゆきさーん……!」
恐らくひとりで抱え込んで悩んでいたのだろう。優しく抱きしめると、優しく背中をぽんぽんと叩いてあげた。

白単翼章を取るほどの実力を持ってはいるが、その実こんなにも脆く儚い存在だったのか。そう思うと、ササコが愛しく思えてきた。

半喰種だからなんだと言うのだ。ササコはササコだ。
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