第7章 軟派ボーイ シーザー
それから2年後、俺は亜理紗と再会することができた。俺を助けてくれたあの町で絵描きをしていたそうで噴水の近くのベンチに腰かけていた。
俺の事は覚えていないだろうと思いつつ、新しく購入した蝶の刺繍がはいったハンカチを手に近づいた。
「突然すみません、亜理紗さんですか?」
「え、ええ…」
いつものように興味のない付き合いだと流れるように言葉が出てくるのだが、このときはまるで俺ののどがガチガチに凍ってしまったかのように機能を果たさずに声を出させてはくれなかった。震えそうになる声と緊張で張り裂けそうになり高鳴る胸を押さえて会話を続ける。
「俺はシーザー・A・ツェペリと言います、2年前この町の路地裏で」
「ああ、あの時の?」
俺を覚えていてくれたのかととても嬉しくなり、すぐにハンカチを差し出した。勿論亜理紗は遠慮したが引き下がらなかった。
「それにしても…シーザーさん?あなたはなんだか不思議な人ね」
「俺が?」
「聞いているわ、町中の女性達を虜にしているスケコマシだって」
それなのに、と話を続ける。
「男の人には滅法弱いのね、立ち去っていく男の人を見たけれどあまり喧嘩馴れしているようには見えなかったわ。よく考えてみれば女の人を守る力がないってことなのかしら…」
そう言われて先程までの嬉しさがどこかへ吹き飛んでいった。
それ程大事にされていない貧民時代をおくっていた俺はそんな事を言われるなど慣れていたものだと思ったが、女性に、しかも心底惚れた女性にそう言われるとは夢にも思っていなかった。
「きっとそんなあなたのことだから私にまで声をかけたんでしょう?残念ね、私、守ってくれるような素敵な男性が好みなの」
じゃあね、といって亜理紗はパレットや水の入ったバケツを片付け始めて、俺が何も言えない間にどこかへ行ってしまった。