第6章 それはまるでカゼのように 花京院
家にあげれば私はすぐに典明をリビングに案内する。私は自室に駆け込んでブレザーを脱いでハンガーにかける。
リビングからは何やら食器を置くような音が聞こえた。多分、典明が準備してくれているんだろうと思う。何気に私の家を使いこなしていて、どこにどんな食器があるかとか、本はどんなものがあるとか、そんなことまで把握しているのだから植嶋家の一人と言っても違和感はないだろう。
「わ、ごめん、私が出さなきゃなのに」
「慣れっこだよ」
そう、慣れっこ。別に普段私がぐうたらしているわけじゃあない。典明がしっかりしすぎているんだ。女子よりも女子力を持った男子。羨ましいにもほどがある。
「これおいしいね」
ぱくり、と抹茶ケーキを口に放り込んだ典明は満足そうに微笑んだ。うん、本当においしい。久々とまではいかないけれど最近ケーキを食べていないからなんだか新鮮な気がする。こうやって典明と2人で家にいると学校をさぼってデートしているみたい。
「典明、学校行かないの?」
「僕も早退してきた」
「は?」
二度も言わないとわからないのか、というように眉間に皺を寄せた。いや、流石に2回言わなくてもわかる。大真面目な典明君が初めて学校をさぼったのだということぐらい。
「いや、あの…私に罪悪感埋め込んで何したいのか知らないけど戻りなよ…」
「心配なんだよ、亜理紗が」
抹茶ケーキを食べ終えた典明は楽しそうにまた箱の中を覗き込んで次はこれだというようにお皿に苺のタルトをのせた。甘酸っぱいにおいが鼻をくすぐって心地よかった。
「…し、心配なのは嬉しいけどさ、サボリはよくないんじゃない?」
「僕はサボったと思ってないよ、付き添いのつもりさ」
それはサボリだと突っ込みたかったけれど本人は至って真剣なご様子なのであまり口出ししないでそっか、といって私も苺のタルトをお皿にのせる。