第1章 それはきっと 花京院
帰りのHRが終って僕は予定通り空条承太郎の後をついていった。取り巻きの女子がなんとも煩く、中心で額に血管を浮かばしている彼には多少の同情を感じる。
「空条承太郎…か」
嫉妬しているわけではない。取り巻きの女子にきゃあきゃあ言われている彼はそれは確かに羨ましいものなのだろうが僕にとってどうでもいいことだ。そんな事よりも、もし彼女が空条承太郎に恋をしていたらと思うと勝てる気がしなかった。それだけの事だ。
嫉妬ではない、単なる劣等感を身に染みて感じているところなのだ、今は。絵に描いてみればそんなのはよくわかる。僕とは違う高い身長、ルックス、危険な色香が漂う風貌、声、性格…全てにおいて僕には魅力がないと感じた。
その絵を思い切りこの赤の絵の具でなぞってやれば彼は怪我をするだろう。この右手が赤い絵の具を動かすとともに彼はまず、足をきり、階段を踏み外し、落ちてしまうだろう。
そこで僕がハンカチを渡し、文章に気付かせることができたなら
「絵うまいね」
「っ?!」
突然背後から声が聞こえ、勢いよく振り返るとそこには彼女が立っていた。驚いた、何故こんな所にいるのだろう。
「もう帰ったんじゃあなかったのかい?」
「うん、こっち方面なの」
危なかった、ここで怪我をさせていればもしかすると彼女にまで被害が及んでいたかもしれない。安心していると僕の手元にあるスケッチブックを覗き込んでふうん、といった。
「これって空条君だよね」
「あ、あぁ、友達だったり」
「まさか、確かにかっこいいけど怖いからね…近づきたくないなぁ」
朝、あの本を読んでいた時のようなしかめっ面になりふぅ、と息をついた。
何となくよかったと思って僕はスケッチブックを閉じた。今じゃなくとも空条承太郎を始末機会は嫌というほどある。焦りは禁物だ。
「スケッチの邪魔してごめんね、じゃあまた明日」
彼女は僕に軽く手を振って空条承太郎が下って行った階段をとんとん、とリズムよく下りて行った。