第1章 それはきっと 花京院
一目惚れだった。
彼女は僕にとっての天使か、それか女神だったんだろう。神々しいというより届きそうで届かないそんな距離感が愛おしく感じた。
風に揺られる肩より少し上で切られた短い黒髪、少し切れ長の輝いた目、きれいな音を発する薄い唇。僕にとってそれが全て美しく、はかなく感じた。
「おはよう、花京院君」
「あ、あぁ、おはよう」
それが僕と彼女が交わした初めての言葉。転校してきた次の日にまるで僕が前からこの学校にいたと思わせるような自然な流れで挨拶をしてきてくれた。
比較的教室に入る時間は早い方な僕は、この学校でもやはりトップで登校してきた。案の定鍵は開いていなくて職員室に取りに行き、帰ってくると廊下で本を静かに読む彼女がいた。その横顔は少し歪んでいて、恐らくあまりいいシーンではないというのが見て分かる。
何も言わずに僕がカギを開けるとその音に気が付いたのか小さくあ、と呟いた。僕は当然挨拶なんてされないだろうと思い、ドアを開けて入るように促すと
「おはよう、花京院君」
と、声をかけてくれた。
戸惑ってしまってついすぐに返事ができなかったが、その声に僕は魅了されたんだ。
だが、僕にはやることがあった。この学校に通っている「空条承太郎」という奴を始末するということだ。彼、空条承太郎は人気者で不良という明らかによくある設定上で暮らしているのだという。
僕の右斜め前の席に彼女は座っていて、僕は「始末する」という意思と同じくらい彼女の存在が僕の中で大きくなっていることに気が付いた。それが一目惚れだという事に気が付いたのはもう少し先の話。
彼女には友人が沢山いるらしい。沢山と言ってもクラスの中で輪の中心になるような人ではなく、数人の友達と他クラスの女子とで話している程度だった。今の僕からすれば十分沢山の友人がいる状態だと思う。
「花京院君」
すぐにわかった、彼女からの呼びかけだと。読んでいた本から顔を上げると目の前に彼女が立っていた。
「何の本読んでるの?」
僕なんかに興味を持ってくれたのか…いや、僕ではなくこの本か。初めて大好きな本に少しだけの嫉妬を覚えた。だがこの話のきっかけを作ってくれたのは紛れもないこの本だ。よくわからないがすっきりしない気持ちだった。
「これはね」
僕は大好きな本について彼女に沢山教えた。
