第6章 それはまるでカゼのように 花京院
「あー…憂鬱」
昼前の電車特有の空き具合、ぽかぽか陽気、おじいちゃんおばあちゃんしかいない列車内はJKまっさかりの私には少し不自然な気がして電車に乗るのをためらった。だけど早く帰らないとこれから体調がどう変化するかわからないし、あーだこーだ言っていないでさっさと乗らなければ。
スマートフォンにイヤフォンコードを差し込んでお気に入りの曲を流す。バラードなんてガラじゃあないから体調が悪い癖にベースの音が激しいいかにも耳に悪そうなアニメソングを流してみる。案の定頭は痛くなり始めたけれどやめられないとまらない~とはまさにこのこと。癖になるこの声優さんの歌は嫌いじゃない。
ふと、電車に揺られてしばらくたってから端末画面を見る。バスの時には気が付かなかったけれど着信が入っていたらしい。合計6件、そのうち半分はよくわからない番号だったけれどその残り半分の表示名は『典明』。
こうしてよく着信に気が付かなかったりして後日謝るんだけど、この着信時間は丁度授業時間内だ。典明は不良ではないしズル休みはしない、授業中に携帯をいじったりしない。まさかとは思って次の駅でおり、電話をしてみる。
「もしもし、植嶋ですけど…」
『この駅に用事か何かあったのか?』
「まさかとは思うけどまさかのまさかでついてきてるわけじゃ」
「『心配だからついてきた』」
耳元の音声と真後ろの音声が重なり勢いよく振り向くと優しく笑っている典明がいた。なんてことだ、過ちを決して犯さない典明がこんなことをするなんて
「世界の終り?」
「なんだよそれ」
そんな冗談言えるならよかった、とくすくす笑うけれど、こっちとしては何故ついてきたんだとか、取り敢えず学校に戻れとか、兎に角突っ込みたいところはたくさんあったけれど心配して付いてきてくれたんだなあと感じて嬉しい気持ちがわいた。
「なんか、ありがとう」
「僕の好き勝手さ」
ほら電車来たよ、とまた電車に乗る。