第4章 proof of life
二月――生き物が、やがて来る春を待ちわびる頃。
私の目と耳は衰えた。目はまだかろうじて見えるが、耳はもう……。
暗くて見えにくい……。何も聞こえない……。
まるで私のすべてが消えていく様な恐怖の中、孝ちゃんの笑顔だけは消えなかった。
私はおもむろにベッドの横にある、備え付けの小物入れからテープレコーダーを引っ張り出す。
これはまだ耳が聞こえた頃、亡くなった私のおばあちゃんの声が録音されたテープを聞いていたものだった。興味本意で「自分も録音したい」と言って新しいテープも買ってきてもらっていたので、それをセットして録音スイッチを押す。
「孝ちゃん。孝ちゃん、あのね……」
私の時間はきっともう無い。だからせめて、私が生きた証を残したかった。
そして翌日――私は、昨日のうちに証を残せてよかったと思うんだ。