第4章 proof of life
月日は意図も容易く流れて行く。
花が咲き誇り、青葉を風に揺らしていた木々はいつのまにか茶色く変化し、秋の訪れを物語っていた。
九月――学校では二学期が始まった頃、それは起こった。
いつものように孝ちゃんが来ていたある日のこと。
「孝ちゃん、悪いんだけど、冷蔵庫に水が入ってるから取ってくれない?」
「おー。ちょっと待ってろ……ほい」
「ありがと」
手を出してコップを受け取った瞬間――ガシャン!! とコップを落としてしまった。
「あ……孝ちゃんごめんね、手が滑っちゃって……水かからなかった?」
「……大丈夫。それよりは大丈夫か?」
「うん。……大丈夫じゃないかも……ベッドが」
「あ~……看護師さん呼んで来るからちょっと待ってろよ!」
孝ちゃんが飛び出したドアがパタンと閉まると、私はフゥと息をつき、手のひらをじっと見つめた。
今、力が入らなかった……。
ゆっくりと握り締めようとするが、指はぎこちなく動くだけでうまく握れなかった。
……あぁ、そっか。
変化したのは、木の葉だけじゃなかったんだ。
私の中でも変化はあったんだ。
「さっきの嘘……バレちゃったかなぁ……」
ポツリと呟くと同時に看護師さんが入ってきた。
事情を話すと看護師さんは私を椅子に座らせてシーツをテキパキと変えていく。
私にはもう、時間がない。
きっと……近いうちに、私は……。
そしたら孝ちゃんは?
孝ちゃんはどうなるの?
椅子に座りながら見た空は、ぼやけてゆらゆらと揺らめいていた。